海外株主への責任追及に関する判例の紹介
2022年11月25日、上海徐匯区人民法院は「2017-2022年の海外、香港、マカオ、台湾に関わる商事裁判に関する上海徐匯法院白書」を発表し、渉外商事裁判の状況を一部開示しました。本文では、そのうちの1つの事例を次のようにご紹介します。
原告である某信託会社(以下「原告」という)は、上海の某飲食会社(以下「飲食会社」という)に250万元を融資し、飲食会社が融資期限満了後に返済できなくなったため、飲食会社を相手に訴訟を起こしました。上海市浦東区人民法院は、飲食会社が原告に対し融資金額を返済する、との判決を下しました。
2012年、原告は上海市静安区人民法院に飲食会社の清算を申請しましたが、同年9月、静安法院は、飲食会社の清算義務者が法律に基づき適時に清算を行わなかったため、会社の財産、会計帳簿等の重要書類及び会社職員の所在が不明で清算ができないとして、被申請者である飲食会社の強制清算を終了させ、債権者が清算義務者に対し、会社の債務の返済責任を負うよう請求することができる、と裁定しました。
飲食会社の登録株主は、本件被告である某実業会社(以下「実業会社」という)及び香港の某会社(以下「香港会社」という)です。香港会社の法定代表者は、本件被告である陳氏です。原告は、①実業会社と香港会社が飲食会社の株主として、適時に清算を行わなかったため、会社の財産、会計帳簿等が行方不明になった、②有効な文書によって香港で会社登録又は商業登記された香港会社は存在せず、陳氏は香港会社の法定代表者として、主体において香港会社と混同した、としました。そこで、原告は、上海市徐匯区人民法院に提訴し、浦東法院の上記判決において、飲食会社が負担すべき債務と利息をその株主に返済させると命ずるよう求めました。
徐匯法院は、①実業会社と香港会社が飲食会社の工商登記における登録株主として、その公示された工商登記情報に法的効力がある、②原告が飲食会社と取引をした時に、飲食会社の株主の真実性を確認する義務や可能性はない、とその考えを示しました。陳氏は、香港会社が被告としての適格性に欠けるため、飲食会社の返済義務を負うべきではないと考えていましたが、主体資格が不明な海外の会社を利用して法的責任を回避する疑いがあるとして、陳氏の上記考えが公平・公正の原則に反し、社会経済の健全な発展に資さないものとされました。徐匯法院は、陳氏が香港会社の名義上の代表者であり、香港会社の登録情報の提供者でもあるとし、香港会社の主体資格が不明という結果に対して全ての責任を負うべきであると判断しました。従って、徐匯法院は、浦東法院の判決で判示された、飲食会社が原告に支払うべき未払金について、被告側が連帯して返済責任を負うと判決しました。その後、被告側が不服して上訴しましたが、二審でも一審判決が維持されました。本件判決から、場合によって、中国国内企業の問題で海外の株主にも法的責任が及んでしまうことは、明らかになりました。
上記判例及びその他関係する商事裁判について、ご不明な点があれば、弊事務所までご連絡頂ければ幸いです。
以上